上田市の「宮桜の湯」 宮下 憲治さん(78歳)

人々の憩いの場を保ち続けたい
上田市常田の「宮桜の湯」は、同市内に2軒残る銭湯の一つ。3代続く銭湯を守り続ける宮下さんは、県の生活衛生同業者組合連合(理容業、クリーニング業など保健所の許可が必要な職種の連合組織)の会長も務め、昨年秋の叙勲では「生活衛生功労者」として旭日双光章を受章しました。
宮下さんが宮桜の湯を引き継いだのは、半世紀も前のこと。大学を卒業後、しばらく会社員として働いていましたが、先代の父が体調を崩したのがきっかけで、家業を継ぐ決意をしました。大学では教職課程も取っており、「教員になっていたらまた別の人生もあったかな」と言いますが、地域の人々の憩いの場になっていた銭湯への思いは、若いころから強くありました。
「ここは、みんなのたまり場。ここに来て、たわいもない話をして、近所の仲間でコミュニケーションをとる。それが大事なんだよ」

そう話す宮下さんの脳裏には、昭和のころの銭湯のにぎわいが焼き付いています。高度経済成長期の1964(昭和39)年には、上田市には30軒以上もの銭湯があったといいます。お年寄りから子どもたちまで、家族で毎日通う人たちもいて、たくさんの声が湯気の中に響いていました。
住宅事情も、地域社会のありようも変わった今では、あのころのにぎわいを取り戻すことは簡単ではないかもしれません。そんな時代にあっても宮下さんは「銭湯文化が継承されてほしい」と願い、湯を沸かす釜に薪をくべ続けます。
上田市内に住む孫の姿には希望を感じています。訪ねてくるたびに、薪割りや釜に薪をくべる仕事を楽しそうに手伝ってくれます。その様子を見るたびに、釜の火も、銭湯文化も、まだまだ消えることはない―と思えてきます。
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